膠原病治療について
膠原病とは
人間には外部から体に入ってきた病原体のような異物を破壊するなどして体から排除する働きがあります。これを免疫といいます。免疫の働きは自分自身の体には働かず、外部から入ってきた異物に対してはたらくのですが、これが自分自身の正常な組織を攻撃するようになることでおきる病気を自己免疫疾患と言います。皮膚や関節など膠原繊維の多いところに炎症が起きる病理学的な特徴があるため昔から膠原病と呼ばれてきました。
全身性エリテマトーデス
顔や手指などの皮膚の紅斑が生じるほか、腎炎や胸膜炎などを起こす膠原病の一種です。関節の痛みがみられ、手指の変形(Jaccoud関節)も生じることがあり、関節リウマチの合併の有無や鑑別診断に悩まされることもあります。男女比は1:9と女性に多く、発症年齢は関節リウマチより若く20歳から40歳までの間が多く特に20歳代が40%、10歳代と30歳代がそれぞれ25%ずつと続いています。かつては5年間で二人に一人が亡くなるという恐ろしい病気でしたが、ステロイドや免疫抑制剤による治療が行われるようになってから5年生存率は90%を上回るようになり、学業や仕事をつづけながらつきあっていく病気になりました。
現在も病気の根本原因は不明ですが、免疫の異常によって作られる、(遺伝子の構成要素である)DNAに反応する自己抗体とDNAとが結合することでできる免疫複合体が皮膚や腎臓に沈着し血管炎や腎炎を起こすことが病理学的に示されています。ウイルス感染や紫外線、怪我や外科手術、妊娠出産や薬物の副作用などの環境因子と、患者さんの持つ遺伝的な素因がリンクすると免疫の異常が生じ、全身性エリテマトーデスが発病すると考えられています。
対処法としては早期発見早期治療に尽きます。最近のトピックスとしては薬害事件によって日本では使えなかったヒドロキシクロロキン(プラケニル©︎)が使えるようになり、免疫抑制剤とステロイドが頼りだった日本の全身性エリテマトーデス治療が世界標準にようやく追いついたことが挙げられます。
全身性エリテマトーデスを疑う症状としては次のようなものが挙げられます。
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全身がだるい、疲れやすい、熱がある
38度を超える発熱が半数以上に見られ、不明熱の原因疾患として医師国家試験にもしばしば出題されます。
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日にあたるとブツブツができる(日光過敏症)
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両頬や額に赤いブツブツができていて日にあたると悪化する
口の周りにはなぜかできないことが典型的で、鼻をまたぐとされています
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耳たぶ、手指、手のひら、足の裏に赤いブツブツがある
特に手指をまるで赤インキにつけたようにべたっと赤い感じにあるとかなり疑わしいです
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頭皮の脱毛がおきる、髪の毛が細く折れやすく短くなる
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関節が痛む
90%ぐらいの症例で関節痛や関節炎を生じるため関節リウマチとの鑑別が必須となります。
関節リウマチを疑ったときには必ず全身性エリテマトーデスなどの膠原病を除外診断する必要があります。 -
口内炎ができやすい
普通の口内炎と異なることは、痛みがないこと。痛くない口内炎が特徴的で、気がつかないケースもあります。
中枢神経病変によるせん妄や統合失調症様の精神障害、うつ病様の精神障害がみられたり、頭痛やけいれんといった症状がみられることもあります
強皮症
皮膚の硬化が特徴的な膠原病です。手足の指の先、顔から始まり、左右対称性に腕から体へと皮膚の硬化が広がります。初期には浮腫状に手指全体が腫れ次第に板状に硬化してつまみにくくなります。経過とともに皮膚が薄くなりつまみやすさが回復します。
強皮症を疑う症状としては以下の様なものがあります。
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レイノー現象
98%の患者さんにみられる症状です。冬場の寒い朝に冷たい水道の水につけると手指が真っ白になるのが典型的です。
夏場でも冷たいクーラーの風にあたるなどするとみられることもあります。
ひどくなると手指の先の皮膚に潰瘍や壊疽が生じることもあります。 -
空咳や息切れ
線維症による咳や息切れがみられることがあります。レイノー現象や手指の皮膚硬化がみられる方は肺線維症を合併しているかもしれません。
肺高血圧を合併することもあります。 -
最近やけに血圧が高い
ある日突然、急な血圧の上昇がおき、そのまま急速に腎不全になる腎クリーゼを起こすことがあります。
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関節の痛み
関節のこわばり感や関節痛がみられることもあり、関節リウマチとの鑑別が必要となることもあります。
強皮症に対する特異的な治療法はまだなく、対症療法が主となります。合併症がおきないか注意深く外来で経過観察をする必要があります。
CREST症候群
強皮症に含まれる疾患で、レイノー現象、食道運動の低下(食べ物がつかえやすい)、手指の皮膚の硬化、毛細血管拡張、石灰沈着などがみられます。
強皮症でみられる肺線維症はほとんど認められず、50〜90%の割合でセントロメア抗体が陽性となります。
多発性筋炎/皮膚筋炎
手足、特に上腕や大腿に左右対称性に筋力の低下がみられ、時に上腕や大腿を掴むと筋肉の痛みを訴える筋炎症状を典型とする病気です。筋肉の症状に加えて皮膚の症状が加わると皮膚筋炎と呼ばれます。上まぶたに薄紫色で少しむくんだ感じになるヘリオトロープ疹(全身性エリテマトーデスの皮疹と同様に日光に当たると悪化します)、手指の関節の背側にできるボロボロと皮膚の屑が落ちる様な赤い湿疹であるゴットロン兆候などが挙げられます。関節炎やレイノー現象がみられることもありますが、比較的軽傷のことが多いようです。
小児期(5~14歳)と成人期(35~64歳)に発症することが多いと言われています。男女比は成人で1対2.6と女性に多く、小児期には性差はないといわれています。小児の場合には皮膚症状を示すことが多いとされ、無治療でも軽快する予後良好なこともありますが、血管炎による消化管潰瘍が原因の出血や消化管穿孔が見られる場合もあり安心はできません。
間質性肺炎を合併することがあり、しばしば間質性肺炎が先にみられ筋炎症状が後から出てくるケースもあり、呼吸器内科からコンサルテーションを受けることが多い疾患です。また、悪性腫瘍の発生にともなって皮膚筋炎様の症状がみられることがあり、全身の精査が必要となります。特に治療に抵抗する場合には悪性腫瘍の存在を強く疑います。多発性筋炎、皮膚筋炎の7~30%に悪性腫瘍が合併するといわれており、診断後1~2年以内に見つかることが多く、全身のありとあらゆる部位にできるため、婦人科や消化器内科、呼吸器内科、乳腺科、泌尿器科などとの連携が必要となり、高次病院での集学的な精査加療が必須です。
筋肉の脱力などの症状は初期には気づかれにくく、関節症状のみを訴える患者さんも過去に経験しています。非常に希な疾患ではありますが、関節リウマチとの鑑別が必要な疾患です。また、筋力低下や筋痛は様々な疾患や薬物の副作用でも生じうるため、組織検査による病理診断も含めた全身の精査による除外診断や服薬歴の詳細な聞き取りなどが必要となります。
筋炎の治療にはステロイドが使われます。減量の過程で悪化することが多く注意深い減量が必要となります。必要に応じてステロイドパルス療法や免疫抑制剤の併用などを行います。
混合性結合組織病/Overlap症候群
膠原病は1人の患者さんに2つ以上の膠原病の症状が一緒に出る場合があります。先に述べた全身性エリテマトーデス、強皮症、多発性筋炎/皮膚筋炎の3つはしばしば合併しやすく、診断基準を同時に、あるいは経次的に満足する場合に定型的Overlap(重複)症候群と呼びます。
それに近い病態として、臨床的に全身性エリテマトーデス、強皮症、多発性筋炎の症状を部分的に合併し、U1RNP抗体が陽性になる場合、混合性結合組織病と呼びます。混合性結合組織病の診断で厚生労働省の特定疾患医療を受給しておられる方は2008年度に8658人が登録されています。男女比は1対13から16と圧倒的に女性の多い疾患で、30歳から40歳代の発症が多いですが、小児から高齢者まであらゆる年齢層で発症しうるとされています。
特徴的な症状としては手と手指の腫脹であるソーセージ状指が高頻度でみられ、強皮症と異なり、罹病期間の全経過にわたってみとめられるとされています。また肺高血圧症の合併率は他の膠原病に比べて有意に多いと言われています。
寒い朝などに手指が白くなるレイノー現象がほぼ全ての患者さんでみとめられます。手指と手の腫脹が全経過にわたってみとめられることが特徴です。
全身性エリテマトーデス様症状は発熱や顔面の紅斑、胸に水が溜まったり(漿膜炎)、関節炎が高頻度であらわれるため関節リウマチとの鑑別診断に苦慮することもあります。
強皮症様症状としては手指に限局した皮膚硬化や肺線維症、食道の蠕動低下による食べ物の使え感などがみられますが、肘を超えて腕全体や体幹の皮膚硬化がみられることは希とされています。
筋炎様症状としては筋力低下や筋肉痛が主として上腕や大腿を中心にみられることもありますが、高度な筋力低下などはみられないとされています。肺高血圧が4~10%に合併することが知られており、動悸息切れや胸痛を感じることがあります。